2015年頃から注目され、流行語大賞にノミネートもされた「ミニマリスト」。
ぼくはミニマリストという概念には強い関心を持っています。
参考:ミニマリストはなにがおもしろいのか。「幸せ」の観点から
今回は「Google トレンド」という「Googleでそのキーワードの検索傾向がわかるツール」を使い、ミニマリストは「アメリカから日本に伝わってきた」という説について考えてみることにしました。
「ミニマリストってなんなの?」「どうあるべきなの?」といった疑問を考えるうえでヒントになるのではないかなぁと。
1.Googleトレンドでみるミニマリスト
1-1.アメリカの「minimalist」
まずはアメリカの「minimalist」の検索傾向です。
2009年ごろから徐々に増えてきていることがわかりますよね。個人的にはリーマン・ショック(2008年9月15日)の影響があるのではと推測しています。
日本でも東日本大震災をきっかけにミニマリストになろうと思ったという人がいるように、既存の価値観を覆すようなショッキングな出来事によってミニマリストが増えるのではないかと。
ただ「リーマン・ショック以外にも、これまでショッキングな出来事はあったじゃん。でもミニマリストは増えなかったから関係ないよ」という考え方もできます。
これについては機会があれば詳しく話しますが、情報技術の急速な発展が関係しているかと。
なお、気になるのは2005年よりも前からキーワードが検索されていること。
つまりミニマリストが誕生したのはアメリカでミニマリストが注目されるよりも前であると推測することができます。
実際、ミニマリストブームの火付け役の一人であるライアン・ニコデマス(Ryan Nicodemus)氏も「ミニマリストとの出会い」によってミニマリストになったと述べており、決して「ミニマリスト創始者」ではないんですね。
参考:A rich life with less stuff | The Minimalists | TEDxWhitefish
どうやらアメリカは昔から「ミニマリスト」という存在昔からあったらしく、2009年ごろに増え始めたと考えることにしましょう。
1-2.日本の「ミニマリスト」
こちらは日本の「ミニマリスト」の検索傾向。
非常にわかりやすいですね。2012年ごろにゼロの状態からちょっと検索されはじめて、2015年あたりから急上昇。流行語大賞にノミネートされるのも頷けます。
明らかにアメリカよりも後から検索され始めていますから、ちょっと短絡的ではありますがこれを根拠に「ミニマリストはアメリカから日本に伝わってきた」と考えることができるわけです。
日本に関しては、少なくともミニマリストという言葉がどこかから伝わってきたであろうことは間違いないだろうと考えています。
アメリカと違って2011年より前はまったく検索されていませんし、ミニマリストというカタカナ英語が日本独自のものとして誕生したとも考えづらいですしね。
ただ検索傾向でミニマリストのことを考えるとなると、色々と問題がありまして、「ぼくの言ってることは100%正しい!」とはなかなか言いがたい。それをこれから説明していきます。
2.検索傾向で調べることの問題
2-1.ミニマリストの原義
なにが問題かというと「ミニマリストって他にも言葉の意味があるんだよ」ということ。以下はネットの辞書で調べたものです。
1 minimalist
芸術的なミニマリズムの従業者か支持者2 minimalist
政府または政治において小さいな改革だけを主唱する保守派
(日本語WordNet(英和)より)
引用元:ミニマリストを英語で・英訳 – 英和辞典・和英辞典 Weblio辞書
日本はともかく、アメリカには「minimalist」という言葉が別の意味でも使われていると考えられますよね。
例えば、ミニマルな芸術作品をつくる人のことを「ミニマリスト」と呼ぶかもしれません。
こう考えれば、アメリカが昔から「minimalist」というキーワードの検索があったことも頷けます。
つまり、日本で流行した「モノを持たない暮らし」という意味での「ミニマリスト」がいつ誕生したのかは検索傾向ではわからない。
さらに「minimalist」の検索傾向が増えたとしても、それが芸術的な意味でのミニマリストなのか、モノ的な意味でのミニマリストなのか断定することはできないんです。
それから「ミニマリズム」という言葉もありまして、こちらは今回の説を全然助けてくれないんですよね。おそらく「ミニマリズム」のほうが「芸術的」「政治的」な意味合いで使われる傾向が強いのかと。
2-2.イギリスのミニマリスト
「アメリカの話してたけど、他の国はどうなのよ?」という疑問も浮かんでくるでしょう。
こちらはイギリスの「minimalist」。同じ英語圏だからなのかやはり昔から検索されていることがわかります。
最近になって検索傾向が上昇しているのはモノ的ミニマリストの影響かもしれませんが、2005年ごろの検索の多さは説明できない。
グラフだけをみると「ミニマリストはイギリスから日本に伝わってきたんだ」「ミニマリスト発祥の地はイギリスだ」なんてことも言えなくはありません。
ぼくは言語に詳しくないし、英語も得意じゃないので、この辺りは色々不安ですね。グローバル化ムリ。
2-3.それ以外の国のミニマリスト
他の国の検索傾向を調べてみると、基本的には日本と同じように「最初は検索数ゼロだったのに検索されはじめて、上昇する」という傾向があります。
ドイツのグラフのように「謎の山があって不自然」というものはありますが、フランスもブラジルもイタリアもインドも注目される時期は違えど同じ傾向でした。
「言語が違うから、それを考慮しなければいけない」と考えることもできるかもしれませんが、
むしろ言語が違うのに、ある時期から「minimalist」というイギリス・アメリカで昔から検索されている言葉が、他の国でも検索され始めたことに注目するべきだともいえます。
フランス語の「ミニマリスト」とかもろもろも考慮しなければいけないので、このグラフをもとに断言することはできませんが、やはりミニマリストはアメリカ、もしくはイギリス発なのかなぁと思うところではあります。
3.ミニマリストはアメリカから逆輸入されてきたという考え方
日本の著名なミニマリストである佐々木典士さんの著書『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』には「ミニマリズムはアメリカから日本に逆輸入されてきた」と書かれています。
かつて、日本には禅や普段の日常のなかにミニマリスト的な概念があり、ミニマリストであったスティーブ・ジョブズは日本の禅の影響を受けていた。
アップル製品というミニマルな製品は、日本で受け入れられた(日本のiPhoneの所有率は妙に高い)。
スティーブ・ジョブズなどの影響でミニマリストを関心を持つ人もおり、「日本のミニマリズムの文化がジョブズを通じて、逆輸入されたようなものだ(佐々木 典士(2015)『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』ワニブックス p.47)」という考えですね。
日本におけるiPhoneの所有率の高さなどは、日本の携帯市場の特殊性なども影響していると考えられるので、この意見が全面的に正しいとはいえないとぼくは考えています。
しかし、アメリカ・アメリカ人・著名人への「あこがれ」がミニマリスト普及に与えた影響は決して小さくはないでしょう。
参考:日本のスマートフォン、携帯電話の販売形態は特殊であると聞きました。… – Yahoo!知恵袋
4.「モノを考える」的概念はもともと日本にもあった
今回は「ミニマリスト」という言葉に関してのみ考えてみました。
確かに、ミニマリストはアメリカから日本に伝わってきたと考えることができますが、もとから日本にも「モノを考える」「モノと生活・幸せ」といった概念は存在していたでしょうね。
例えば「断捨離」。ミニマリストが注目される以前から検索されています。
「モノ」への関心はすでに日本でも高まっていて、こうした「断捨離ブーム」「片付けブーム」などが背景にあったからこそミニマリストが注目されたのかもしれません。
5.まとめ
ミニマリストって非常に興味深いんですよね。
近年の人々の消費行動の変化としてみてもいいですし、「モノと幸せ」とか「もともとみんなミニマリストだったっていうけどほんと?」とか色々と考えられる部分があるのです。
今回の考察はその表面をなぞるようなものですし、ちょいちょい穴もあるんですが、それでも「ミニマリストは昔からいたかもしれない」「色々な国でミニマリストが注目されている」なんてことがわかりました。
それから「昔から存在していたとして、なんで急に注目されたの?」という疑問が浮かんできたり。
この記事ではまだまだ説明できていないことがたくさんあるので、これからも定期的にミニマリストについて考えてみようと思います。