「ポジティブであることはよいことだ」と一般に言われている。
しかし、ポジティブであることとは何であるか説明できる人は少ないのではないだろうか。
また、ポジティブをよく知らない人がその意味を曲解して「笑顔であること」「常に前向きな言葉を呟くこと」など極端な行為に走る。
そういった人を見ることで、ポジティブという言葉に対して違和感を覚える人もいるのではないか。
今回はポジティブ心理学の権威マーティン・セリグマン氏の『オプティミストはなぜ成功するか』をもとに、「ポジティブである」とはなにかを説明したい。
この手の本にありがちな不必要に派手な表現の引用や、飛躍した論理構成で読者を引きつけることはいっさいしない。
ポジティブ思考は3つの説明スタイルで表される
起こった物事をどのように受け取るかという説明スタイルによって、ポジティブ思考の人間とネガティブ思考の人間に分けることができる。
例えば、「仕事での失敗」という物事が起こった場合、下記のような受け取り方が考えられる。
- 永遠に改善できない。また失敗を繰り返してしまう。自分のせいだ(悲観的な説明スタイル)
- 今回の反省を活かせば次は上手くいく。今回は運も悪かった(楽観的な説明スタイル)
ポジティブであろうとネガティブであろうと、自分の周りに起こる出来事は変わらない。異なるのは起こった物事に対して、その人がどのような解釈をするのかということだけである。
そして、解釈を下記の3つの視点から分類することで、ポジティブかネガティブかどうかを判断することができる。
- 永続性
- 普遍性
- 個人度
ここでは悪いことが起こったときの反応をもとに3つの説明スタイルについて解説していく。
ポジティブであるとはどういう思考なのか
永続性(ネガティブ:永続的/ポジティブ:一時的)
悪いことを〝いつも〟とか〝決して〟という言葉で考えて、いつまでも続くと思っている人は永続的、悲観的な説明スタイルの人だ。〝ときどき〟とか〝最近〟という言葉で考えて、状況を限定し、悪いことは一過性の状態であると思っている人は楽観的説明スタイルの人だ。
マーティン・セリグマン『オプティミストはなぜ成功するか』パンローリング株式会社(Kindleの位置No.1003-1005)
- ネガティブ思考の場合:起こった悪い事が永遠に続くと考える(例:失敗してしまった。私はこれからも同じように失敗続きの人生を送ることになる)
- ポジティブ思考の場合:起こった悪い事が一時的なものであると考える(例:失敗してしまったが、次は上手くいく)
何かよくないことが起こったときに「もうダメだ」と考えてしまうことはないだろうか。これは説明スタイルが永続的であると考えられる。
ポジティブ思考を身につけたいのであれば、悪いことが起きたときにも「次は上手くいく、上手くやるための努力をする」といった一時的な説明スタイルで物事を解釈するべきである。
言うまでもないが、この説明スタイルを身につけることによって「最近良い出来事しか起こらなくなった」という魔法は起こらない。あくまで私たちのものの見方が変わっただけである。
普遍性(ネガティブ:普遍的/ポジティブ:特定)
オプティミストは悪い出来事には特定の原因があると考え、一方で良い出来事は自分のやることすべてに有利な影響を与えると信じる。ペシミストは悪い出来事には普遍的な原因があり、良い出来事は特定の原因で起きると考える。
同書(Kindleの位置No.1059-1061)
- ネガティブ思考の場合:起こった悪い事の原因は“全般”にあると考える(例:私がモテないのは容姿も性格もすべてイケていないからだ)
- ポジティブ思考の場合:起こった悪い事の原因に特定の物があると考える(例:私がモテないのは服装がダサいからだ)
なにか失敗したときに「どうせ私なんか」と考えるのは普遍的な説明スタイルの傾向がある。
逆に失敗をしたとしてもなにか特定の原因があるだけであり、自分自身のすべてが否定されるとは考えないのが「特定」の説明スタイルだ。
個人度(ネガティブ:内向的/ポジティブ:外向的)
悪いことが起こったとき、私たちは自分を責める(内向的)か、ほかの人や状況を責める(外向的)。失敗したときに自分を責める人は結果的に自分を低く評価することになる。
同書(Kindleの位置No.1094-1096)
- ネガティブ思考の場合:起こった悪いことは自分のせいだと考える(例:失敗したのは私のせいだ)
- ポジティブ思考の場合:起こった悪いことは外部要因のせいだと考える(例:失敗したのは景気が悪かった。失敗したのはあいつが悪い)
これをポジティブ思考だと言われて、「よいことなのか?」と違和感を覚える方もいるだろう。それについてはセリグマン氏も認識しているようで、本書でも触れている。
責任逃れを助長するようなやり方を提唱するのは私の本意ではない。なんでもかんでも内向的から外向的思考に変更することはないと思う。しかし、確実にこれをやるべき状況もある。それは、うつ病のときだ。
同書(Kindleの位置No.1134-1136)
また、企業の成績が悪いときに、企業自身の問題に目を向けずに「景気が悪いからで経営方針に問題はない」と考えることはポジティブであろうと正しいだろうか。
詳しくは言及しないが、ポジティブ思考はときに現実から目を背けることがある。
説明スタイルによって、ポジティブ思考であるかネガティブ思考であるかは分けることができる。しかし、世間一般で思われているように、ポジティブ思考であることがすべて正しい・良いということではない。
自分の失敗の原因を外部要因で考えてしまうことについては、下記でも詳しく書いています。
参考:成長できない人は失敗を「外部要因」のせいにする – ジブンライフ
正しく理解したうえでポジティブであろうとすることは良いこと
以上のように、ポジティブ思考とは3つの説明スタイルを用いる思考のことである。
とにかく笑顔であることやポジティブな言葉を呟くことには、一定の効果は認められることはあるだろうが、ポジティブ思考そのものを指してはいない。
また、単純にポジティブになると幸せがやってくるというような、非科学的な説明もある。しかし、説明スタイルを知れば、ポジティブ思考とは起きた物事についてポジティブに考えるだけで、起きている事象自体は変わらないことがわかる。
今回紹介した書籍で述べられているように、ポジティブ思考はあなたの人生に対してよい影響を与える。
本記事ではポジティブ思考とネガティブ思考の違いについて述べた。一方でポジティブ思考とネガティブ思考の特徴やどういった状況でどちらの思考を用いるかまで触れていない。
それについては別の機会で述べることとする。
今回はポジティブ思考とネガティブ思考がどう違うのかを知った。それをもとに「ポジティブというのは曖昧なものではない」「怪しさがあるものではない」ことを理解し、「ポジティブ」という言葉に対する違和感を拭い去ってもらえれば一番の目的が達成できたといえる。
楽観主義の恩恵は無限ではない。悲観主義は社会全般においても個人の生活においても役目を持っている。悲観的な見方が正しいときはそれに耐えなければならない。私たちはやみくもな楽観主義でなく、しっかりと目を見開いた柔軟な楽観主義を望んでいるのだ。
同書 (Kindle の位置No.4691-4694)
今回の内容をもっと簡単に解説しているのは下記の記事。