マルチタスクを「効率的に作業をこなす方法」として認識している人は多い。
しかし、実はマルチタスクを行うことは人間には不可能である。せいぜい私たちにできることは「タスクスイッチング」でしかない。
さらに、そのタスクスイッチングを行うと、むしろ生産性が低下してしまう。
つまり、私たちがマルチタスクをして生産性をあげようとしても、むしろ逆効果なのである。
私たちはなぜ「マルチタスクはできる」と勘違いしているのだろうか。また、タスクスイッチングとはどのようなもので、なぜ生産性が低くなるのだろうか。
- なぜマルチタスクは人間にはできないのか
- タスクスイッチングが生産性を下げる理由
- 【反論】マルチタスクはできる作業もあるのではないか
- 本日の根拠と参考文献
- 【まとめ】マルチタスクはできないし、タスクスイッチングは効率が悪い
なぜマルチタスクは人間にはできないのか
脳は2つ以上のことに集中することができない
私たちが想像しているマルチタスクとは下記のようなものだろう。
- 会議に出席しながら関係のない書類を作成する
- メールの文面を書きながら、気になる書類に目を通す
このように複数の作業を同時進行させることで、作業にかかる時間を省略することをマルチタスクという。
しかし、このような作業の進め方を人間は行うことができない。なぜなら、人間の脳は2つ以上のことに集中することができないからだ。
つまり、パソコンならともかく(コンピューターの脳であるCPUには4つくらいの脳が搭載されていることが多い)、人間の脳ではマルチタスクはできない。
では私たちがマルチタスクだと思っている”それ”はいったい何なのだろうか。
私たちの想像しているマルチタスクと”本当のマルチタスク”の違い
私たちがマルチタスクだと思っているものの正体はタスクスイッチングである。
先ほどの例で書くならば、以下のようになる。
- 会議に出席し話を聞く、一度聞くのをやめて、書類を作成する。名前を呼ばれたことに気づいてまた会議に参加する。
- メールの返信を書いているが、一度手を止めて書類に目を通す。キリのいいところまで読んだら、またメールを書く。
高い頻度で取り組むタスクを切り替えているだけで、作業の同時進行などできていないことがわかる。
マルチタスクが推奨されるのは作業を同時進行するからだ。しかし、人間の脳ではマルチタスクができず、実際はタスクスイッチングを行っている。
これを図にしてみるとわかるが、タスクスイッチングで生産性が向上するとは思えない。さらに不幸なことに、タスクスイッチングは人間の生産性を低下させる。
タスクスイッチングが生産性を下げる理由
タスクスイッチングが生産性を下げる理由は、タスクを切り替えるときのタイムラグにある。人間はタスクを切り替えるときに、認識できないレベルの空白の時間が生じさせる。
これを図にしてみると、タスクスイッチングを行えば行うほど、切り替えにかかる時間が生じ、生産性が低下することがわかる。
つまり、マルチタスク(実際はタスクスイッチング)はやらなければやらないほどよい。私たちはむしろシングルタスクを行い、生産性を向上させるべきであるとわかる。
【反論】マルチタスクはできる作業もあるのではないか
ここまでの内容を読んでいると、「いや、私は実際に作業を同時進行するようなマルチタスクを行っている」と思った方も多いだろう。
- 音楽を聴きながらドライブをする
- テレビを見ながら食事をする
実はこの反論は正しい。人間の脳は異なる脳の部位をつかう作業ならば同時進行することができるからだ。
だとしたら、仕事でもマルチタスクは通用するといえるだろうか?
残念ながら仕事でマルチタスクを行える機会は少ない。仕事で、異なる脳の部位を使うことは多くないと想定されるからだ。
会議の内容はテレビのように聞き流せるものだろうか? 内容を論理的に解釈し、それに対応した発言をしなければならないはずである。そのときに、論理的な主張の書類を書くことができるとは思えない。
私生活ならばともかく、仕事で与えられるタスクは性質の近いものが多く、同時進行させることは困難だろう。
もっとも、なにかをしながらドライブをすると、注意散漫になり、事故を起こしやすくなることは想像に難くない。
本日の根拠と参考文献
【参考文献】『SINGLE TASK 一点集中術 ―「シングルタスクの原則」ですべての成果が最大になる』
本書はマルチタスクは幻想であると否定し、シングルタスクを推奨する書籍である。
また、シングルタスクを実践するための手法にもページを多く割いている。マルチタスクを行わないのは失礼ではないのかといった主張にも反論が用意されている点が興味深い。
マルチタスク信仰は根深いが、少しでもシングルタスクに興味を持ったのであれば、是非読んでいただきたい。
デボラ・ザック著 栗木さつき訳(2017)『SINGLE TASK 一点集中術 ―「シングルタスクの原則」ですべての成果が最大になる』ダイヤモンド社
①脳は2つ以上のこと集中することができない
スタンフォード大学の神経科学者エヤル・オフィル博士は「人間はじつのところマルチタスクなどしていない。タスク・スイッチング(タスクの切り替え)をしているだけだ。タスクからタスクへとすばやく切り替えているだけである」と説明している(p.40)。
②タスクスイッチングには空白の時間がかかる
本書のなかで、マサチューセッツ工科大学のアール・ミラー博士が<人はなにかしているときに、べつのタスクに集中することはできない。なぜなら2つのタスクのあいだで『干渉が生じるからだ』>と述べていることに言及している。
そして、これがタスクスイッチングにかかる空白の時間だと主張している。
一般に一般に「マルチタスク」と考えられている行為は「タスク・スイッチング」にすぎない。(中略)タスクの切り替えには0.1秒もかからないため、当人はその遅れに気づかない(p.41)。
③脳の同じ部位を使わない作業は同時進行可能である
一般に一般に「マルチタスク」と考えられている行為は「タスク・スイッチング」にすぎない。(中略)タスクの切り替えには0.1秒もかからないため、当人はその遅れに気づかない(p.41-42)。
本書では同時進行可能なものについてはマルチタスクだと定義していないが、本記事では割愛している。
【まとめ】マルチタスクはできないし、タスクスイッチングは効率が悪い
- 人間は2つ以上のことを同時にできない→マルチタスクはできない
- 私たちがマルチタスクだと思っているものはタスクスイッチングである
- タスクスイッチングは切り替えに時間がかかるため、むしろ作業効率が下がる
- いわゆるマルチタスクよりもシングルタスクのほうが生産性向上に効果がある