貸与型の奨学金の話です。
ぼくも日本学生支援機構の奨学金にはお世話になっている学生です。
日本の奨学金の批判的な意見としては「滞納者がいる」「他国と比べて返済不要のものが少ない」「サラ金より過酷な取り立てだ」というものがあるようですね。
仕組みを承諾して借りている人間が、制度そのものになにか今さら文句言うのはどうかなと思うので、どのようにして奨学金と向き合っていくべきかについて述べてみます。
大学生は「奨学金=借金」であるという意識があまりに希薄であるように思えるからです。
大学生と奨学金の関係
大学生は奨学金でお金を借りているという意識が低い
一番驚くのが自分が借りる奨学金は「返さなくてはいけないものだ」ということを奨学金手続き前に知っていたかどうかの調査結果。無延滞者は92.5%知っていたが、延滞者は56.1%と半数近くがそもそももらえるもんだと思ってたという・・アホかい。ローン借りて返さなくていいと思ってた的な・・。
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返さなくてもいいと思っている人はさすがに少数ですが、それほど必要性がないのに借りていたり、借金であることを意識せずに奨学金を使っている学生は非常に多いのです。
- 今月、奨学金余ってるからなにに使おう
- 暇な時間があるのにバイトせず奨学金をもらう(暇な時間に勉強するわけでもない)
- 奨学金借りているけど、サークルで使う高価なものをローンで買った
といった光景をみることもあります。利子のない第一種ならまだましなのかもしれませんが……。
借りている金額が「必要最低限のお金」ではなく、「比較的余裕を持って生活できるお金」になっているケースもあるのではないでしょう。
「今月、借金余ってるからなにに使おう」「暇だけどバイトせずに借金して生活しよう」「借金あるけど、必要不可欠ではない物を買うためにローン組んだ」。こうして置き換えて考えてみると、恐ろしい行為のように思えます。
日本学生支援機構は説明をしっかりしている
日本学生支援機構のサイトを見ても、返済についてはくどいほど書いているし、パンフレットにも明確にきっちり書いている。もちろん滞納が増えてから対策したのかもしれないが、それにしても滞納者の半数が申し込む前に返済義務があるのを知らなかったというのは驚きだ。
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ここにもあるように、日本学生支援機構はかなり丁寧に返済についての説明をしています。
前に説明会に参加したときもしつこく言っている印象でした。学生側からみても、返済されないことが一番嫌なんだろうということが伝わってきます。
「あなた達が滞納すると、次のあなたのような学生が困る」という主旨の説明を受けたことも覚えています。
「イメージ」と「実態」の差が最大の問題
日本学生支援機構がしっかりと返済について説明をしているのだから、「奨学金は借金」だという意識も自然と抱きそうなものですが、なぜ大学生には奨学金=借金という意識が希薄なのでしょうか。
その最大の原因は奨学金に対する「イメージ」と「実態」がかけ離れていることにあるように思えます。
奨学金に対するイメージはよい
学生は基本的に日本学生支援機構や奨学金に好意的な感情を抱いています。
もちろん、借りている人であとから感情が変わる人はいるかもしれませんが、高校生のときや大学生の序盤、それから奨学金を借りていない学生のイメージはかなりよい。
その理由の一つとして「学生支援機構」「奨学金」といった言葉に対するイメージがあるでしょう。どちらも言葉だけをみれば、慈善事業団体的なものに感じられなくもありません。
実状はどうであれ、社会にでる前の無垢な高校生や学生の感じ方はそんなものではないでしょうか。
加えて、パンフレットや説明会などでも「夢のある感じ」な説明をすることが多く、例えばトップページを見ると以下のような画像があります。
「はばたく翼、ささえる掌」「Catching Dreams- You!」といった文言は、「優しい気持ちで慈善として給付型の奨学金を出しているような団体」が掲げていてもおかしくありません。
説明会でも「奨学金のおかげで学ぶことができました」といった趣旨のビデオや、奨学金は次の世代へとどんどん受け継いていくものなんだといった仕組みの説明を受けます。
奨学金の返済をするときの口座引き落としを「リレー口座」と表現し、『あなたの返還金が後輩奨学生の奨学金としてリレーされる』という意味ですと説明しています。
日本学生支援機構に対して最初に感じる印象は、慈善事業団体的という表現は大げさだとしても、借金をするというプレッシャーを感じさせないものなのではないでしょうか。
奨学金を借りている友人が、奨学金を借りていないためその仕組みを知らない人に奨学金に対する愚痴を言っていました。
その奨学金を借りていない人は「お金を貸してもらっているんだから、文句を言うべきではない」と反論するのです。しかし借りている側の学生はもはや“貸してもらっている”という感情は持ちあわせていません。
ここに実態とイメージの差が大きくあらわれているように思います。
奨学金の実態はイメージと違う
- 実際は単なる『学生ローン』。金利は1.6%程度と並の住宅ローン以上で、少しでも返済が滞れば、奨学金機構がすぐに裁判所に支払督促の訴訟を起こすんです。
- ほとんど街金です。実際に奨学金を貸し出す機構は、取り立てのプロである債権回収会社と契約していて、返済が遅れようものなら債権回収会社の人が自宅や職場に押しかけてくると聞きます
(2ページ目)多額ローン、就職先はブラック…Fランク大学卒業生の厳しい現実〜なぜ入学者減らない? | ビジネスジャーナル
上記の表現は大げさではあります。
奨学金の金利は変動しており、1.6%超える月はあまりないですし、債権回収会社の人が“押しかけてくる”という表現も不安をあおるものです。
それに基本的には電話での回収だとか(勤務先に電話がくる場合はあるそうですが)。
- 本機構が委託した債権回収会社は、電話、文書および自宅または勤務先への訪問等により督促を行っておりますが、自宅または勤務先への訪問の際、直接現金を徴収することはありませんので、ご注意ください
- 長期間延滞が続くと、次のような民事訴訟法に基づく法的措置を執ります。
こうした本当かどうかわからない記事も多いようです。以下の記事ではそうした情報に対して疑問を呈しています。
しかしながら、貸与利子付きの場合「返済義務」「良心的な金利」「訴訟のリスク」「債権回収会社の回収」といった条件でお金を借りているわけです。
確かに制度そのものに問題はありません。
しかし、パンフレットや説明会などで形成された学生が抱く奨学金に対する「イメージ」と、その「実態」はかなりかけ離れています。奨学金の作られたイメージと奨学金の仕組みの間には、大きなギャップがあるのです。
そのため、学生は奨学金を借りることに、ほとんどプレッシャーを感じていないのではないでしょうか。
奨学金に感謝する必要はない
奨学金は借金だと思うべき
利子付き奨学金を借りている大学生は、奨学金を借金だと認識しましょう。社会経験の少ない私たちが、なんとなくのイメージで奨学金を想像してはいけません。
そのお金は出来る限り使うべきものではないし、今まで親にもらっていたお金と違い“怖い要素”も持ち合わせていることを知るべきです。
一方で、日本学生支援機構に文句を言ったり、極端に否定的な感情を持ったりするべきではありません。
確かにイメージ戦略に問題を感じなくもありませんが、十分に返済について説明を受けていますし、それに承諾して奨学金を借りているからです。
奨学金との向き合い方
奨学金は借金であると認識したうえで、以下のように奨学金と向き合うといいでしょう。
学生と日本学生支援機構はビジネス的な関係で、互いにある程度利害が一致しているために、お金の貸し借りという取引をしているのだと考えるのです。
表題には「感謝する必要はない」と書きましたが、実際のところ感謝はしっかりとしています。この仕組みがあるからこそ、ぼくは大学で好きな経営学の勉強をできるわけですから。
ただその感謝のあり方は、優しい友人や親切な人に対する「ありがとう」というよりも、接客をしてくれた店員や送迎してくれたバスの運転手さんに対する「ありがとう」に近いものです。
どちらかが劣るというわけではありませんが、これは取引の過程に生じるもので、その感謝のあり方が異なるといえるでしょう。
これは取引ですから、こちらが約束したことを絶対に守らなくていけません。将来は返済が滞ることのないように、様々なことを計算していく必要があるでしょう。
私たちが奨学金に抱くような優しいイメージは捨てるべきです。もしこちらが相手に不利益をもたらすようなことをしたら、相手は笑って許してはくれません。
相手は確かに私たちの学業や就職活動での成功を祈ってくれていますが、その背景に「お金」という現実的な問題があることを忘れてはいけません。
まとめ
このように、私たちが奨学金に対して抱いているよさ気なイメージが、奨学金を借りていてもそんなに大変なことではないと無意識に思わせているのではないでしょうか。
ましてや、お金を借りるのは、お金を稼ぐことの大変さを経験したことのない学生です。言葉ではわかっていても、感覚的には大人が想像できないほどに気楽に考えているかもしれません。
よく奨学金という名称ではなく、「学資ローンなどの名前に変えるべきだ」という人を見かけます。今回の視点からみたとき、名前を変えることは有効な手段であるように思えます(しかしなんらかの事情があるのでしょう……)。
また、現在奨学金を借りている学生で、奨学金制度を批判している人はこのギャップに怒りを感じているのだと推測できるでしょう。
ぼくも奨学金は借金であるという意識が低く、借りなくても平気なお金を借りているということがありました。今では徐々に減額し、将来背負うであろう借金の額を出来る限り減らしています。
考えようによっては、奨学金を背負うことは非常に良い経験になります。お金を借りていない企業はほとんどありませんし、長い人生のなかでお金を借りることはあるでしょう。
学生のうちから借金という概念と向き合って、その重要さや怖さ、長期的視点を持ってお金について考えることなどを体感することができるからです。
奨学金は借金だと思うべきではありますが、適切に向き合っていくことで、借りている額以上に得るものがあるかもしれません。