- 部下(後輩)が自分で考えて動かない
- 自分ばかりが仕事をしている
こうした悩みを抱えている人は、会社にも部活にもサークルにもいるでしょう。
今回はこうした悩みを解決するために、自分で動ける部下の育成方法をご紹介します。部下という言葉は「後輩」「メンバー」などと置き換えていただいても大丈夫です。
自分で動ける部下がいれば、あなたに負担が集中することはなくなり、よりやらなければならないことに取り組むことができるでしょう。
ご紹介するものの多くは、元々ダメなリーダーだった人たちが気づいたものです。ですから、多くの人たちが陥りがちな間違いを正してくれます。
またその育成方法のほとんどは「平凡」「当たり前」と思えるようなものばかりです。
しかしだからといって読み流してはいけません。これらの「平凡」「当たり前」は重要であるにも関わらず、本当に実践されていることはめったにないからです。
これらの平凡な「部下の育成方法」を実践できているか考えながら読み進めてみてはいかがでしょうか?
部下を心から尊重・信頼する
正しい褒め方・叱り方
褒めることや叱ることといったフィードバックは、意外と正しい方法が認識されていません。
どんな行動をしてどんな結果がもたらされたのか。それを具体的に相手に伝えてあげることがフィードバックです。
それを知らずに、感情的に部下を褒めたり叱ったりしていては意味がありません。
以下の点に注意しながらフィードバックを行えば、部下は何が問題で次はどうするべきなのかがわかります。
- 感情的になってはいけない
- フィードバックは批判ではない
- フィードバックを部下に与えないと、どう思われているのか不安になる
- ポジティブなものであるとよりよい
指摘や注意はもちろん必要です。要するに決して感情的に怒らないということです。感情的に起こることは怒る側も怒られる側にもメリットがありません*1。
仕事ではなく個人として尊重する
別の部署に、パナソニックで連結決算を担当してた社員が在籍していました。
(中略)
私が「経理の人が辞めてしまうんだけど、興味があったりしない?」と頼んでみたところ、返ってきた答えは「私、経理が嫌でパナソニックを辞めたんです」というものだったのです。
もちろん未練がなかったかといえば嘘になっていまいますが、私は「そうかあ~」と素直に引き下がりました。*2
もちろん仕事ですから、やりたくないことをやらなければならないことはあるでしょう。
しかしそうした仕事をできる限りやらせないほうが、部下は自分で動くようになる可能性は高くなります。またそうした目先の利益よりも、部下を尊重することを優先する上司は慕われるものです。
部下を変えられると思わないこと
人はみんな自分が個性的で、かけがえのない存在だと思っています。そのため、そう簡単に人は変えられるものではありません。
たいていの人間は、自分が他人とは違うことをしているとか、自分は掛け替えのない存在だと思っていたいものだ*3。
しかし、自ら変わるように促すことはできます。
どうしても他人を変えようとすると「こうしなさい」「それはダメ」といった上目線口調になりがちです。
そうではなく「なんでそうなったんだと思う?」「どうしたらよいと思う?」といった横目線口調で質問するといいでしょう。
当たり前のことですが、人は自ら出した結論に対して従わないということはありません。「こうしろ」ではなく「こうしなくちゃ」と思うように促すことが大切なのです。
心から信頼することは難しい
人を心から信頼することは非常に難しいものです。
有能な部下を育てるための建前として、都合のいい褒め言葉を並べていても、いつか部下はそれを見抜きます。
打算ではなく、本当にその部下を一人の個人として信頼し尊重することは困難です。その難しさゆえに、部下の育成において最も重要な点であるといわれるのでしょう。
部下に仕事を任せる
考えを共有し、理由や意図を伝える
部下に仕事を任せるときには、自分の考えを明確に示し、共有するようにしましょう。
自分で仕事をする場合は当たり前のようにわかっていることであるため、伝えることを怠りがちです。
また自分の仕事に対する考えや、こだわりなども常日頃から伝えておくと、部下は仕事をしやすくなります。ただしそれを押し付けてはいけません。
上司はどれくらいの成果を部下に期待しているか示し、それを部下が妥当なものであると感じているかを確かめます。
そしてなぜ、その部下にその仕事を任せるのかを教え、何が求められるのかを認識させるべきでしょう。
そうすることで「こうする」だけではなく「○○だから、こうする」という思考で行動するようになり、自分で動けるように成長する助けとなります。
ある仕事に関する手順を全て覚えてこなせるようになったとしても、それは丸暗記でしかありません。
(中略)
対して、それがリーダーの仕事に対する理念やビジョンを理解した上でのことであったなら、「なぜその手順を踏むのか」ということも同時に理解でき、新しい仕事を任された際にも、その理念やビジョンを実現するための最初の道標とすることができます*4。
70%の出来で十分だと考える
部下に仕事を任せるときに、自分と同じだけの成果を期待してはいけません。
それは経験や能力が不足しているという理由もありますが、それ以上に、部下なりのこだわりを尊重してあげるべきだからです。
あなたにとっての100%には、自分自身の仕事に関するこだわりが反映されています。つまり、理想的な仕事の成果とは、人によって微妙に異なっているということです。
そのため、そのやり方自体に大きな問題がないのであれば、70%だと感じてもその成果を尊重してあげるとよいでしょう。
もちろん、純粋に結果として足りない部分があるのであれば、それをリーダーは補うべきです。
スタッフが自分の70%まではこなせるだろうと感じるなら、30%はフォローしてあげましょう。
(中略)
仕事を任せる「複数人」には、自分自身も含まれているくらいのつもりでいるとよいでしょう*5。
部下の能力に合わせて任せる「範囲」を決める
『1分間リーダーシップ―能力とヤル気に即した4つの実践指導法』には部下の能力に応じて、4つのリーダーシップを取るべきだと書かれています。
「完璧なマネージャーというのは柔軟性があって、リーダーシップの四つのスタイルを使いこなせる人を言います*6」
こうした人によって対応を変えることを不平等だという人もいますが、この本では「平等でないものを平等に扱うことほど不平等なものはない。」と主張しています。
4つのリーダーシップは部下の能力に合わせて、レベル1からレベル4まで推移していくものだと述べており、以下のような図にとって示されます。
詳しく書くと、本が一冊書けてしまうので省略しますが、レベル1とレベル4のリーダーシップしか行えない上司が非常に多く、レベル2とレベル3を行うことが難しいと考えられます。
この理論はSL理論と呼ばれており、以下の書籍で発案者が詳しく書いています。
普段は口出しせず、助けを求められたら応じる
レベル3のリーダーシップにも関わる重要な考え方の1つが、助けを求められたら応じるということです。
どうしても部下を心配するあまり、過剰に口を出してしまうことがありますが、ある程度仕事ができる部下にとってはおもしろくありませんし、自分で動こうとしている部下の邪魔をすることにもなります。
ちょうどそれなりに色々なことがわかるようになり、自分自身の考えや判断での行動に挑戦したいと思うようになるからです。もちろん、多くの場合、やってはいけないこととやっていいことの区別はついています。
それにも関わらず過剰に口を出すと、部下は「信頼されていない」「自分に任せるというのは建前だ」と感じるものです。
心配する気持ちはわかりますが、遠くで見守り、部下から頼ってきたときや、本当に「やばい」ときだけ助けるようにしましょう。
そんなときに助けに来てくれる上司に対して、部下は信頼と尊敬を覚えるはずです。
まとめ:平凡だけど難しい
今回紹介した部下の育成方法は「平凡」ですが簡単ではありません。
いずれの方法もなんとなく思いつくようなものですが、実践することが非常に難しいのです。
「そうは言うけどうちの部下はね……」という言葉を思い浮かべた人も多いのではないでしょうか。
紹介した『一分間リーダーシップ』の登場人物や『自分がいなくてもうまくいく仕組み』の著者も最初は上記のことを実行できていませんでした。
しかしこれら平凡な部下の育成方法の重要性を認識し、本気で実践することで素晴らしいリーダーになったのです。
まずは決意と実行力をもって上司からなんとか働きかけなければ、この平凡な方法を実行することはできません。
とりあえず部下の良いところを探して、人として信頼し、尊重するところからはじめるといいかもしれません。
*1:山本 敏行(2013)『自分がいなくてもうまくいく仕組み』クロスメディア・パブリッシング p.81
*2:山本 敏行(2013)『自分がいなくてもうまくいく仕組み』クロスメディア・パブリッシング p.26
*3:チャールズ オライリー・ジェフリー フェファー(2002)『隠れた人財価値』翔泳社 p.344
*4:山本 敏行(2013)『自分がいなくてもうまくいく仕組み』クロスメディア・パブリッシング p.61
*5:山本 敏行(2013)『自分がいなくてもうまくいく仕組み』クロスメディア・パブリッシング p.46
*6:K・ブランチャード(1985)『一分間リーダーシップ』ダイヤモンド社 p.37