会社にかぎらず、部活や日常的なちょっとした作業でもサボる人はいるものです。
こうしたいわゆる「サボる」という行為を、学術的な用語では「社会的手抜き」といいます。
こうしたサボる人が多くなりがちな組織にはいくつかの特徴があり、そこには意外と思うようなものもあるかもしれません。
社会的手抜きを防ぎ、効率的な組織を運営するためにも、どのような組織がサボる人を増やしてしまうのか知っておくべきでしょう。そうすれば、そうならないように行動することができます。
良かれと思ってやっているのに、それがサボりを誘発しているということもよくあることです。
リンゲルマンのロープの実験
まずは「社会的手抜き」を語るうえでは欠かせないロープの実験について引用しておきます。
チームでなにかを作業するとき、人は無意識のうちに手を抜いてしまうということがあるのです。
農学科の生徒に動力計に取り付けたロープを引っ張るように指示し,その力を測定しました。1人で行った場合,生徒は平均85kgを引っ張ることができました。
リンゲルマンはその後,生徒7人のチームを編成し,できるだけ強くロープを引くように指示しました。7人のチームでは引く力の平均は450kgでした。チームの場合には、各メンバーはひとりで引っ張った時のたった75%の力しか出していなかったのです*1。
仕事をサボる人が多い組織の特徴
基本的に集団でなにかをしようとするとき、人はどうしても手を抜いてしまいます。しかし、それを防ぐための手立てはいくらでもあるんです。
高い成果をチームで上げているケースを聞いたことはあると思います。
それではそれができていない場合、どんな問題を抱えているのでしょうか。
1.個人の努力が特定できない
先ほどのロープの実験もまさにこの条件に当てはまっています。
ようするに、サボっていてもバレないという環境です。運動会の綱引きで力を出さない人や、合唱祭のとき口パクで歌う人というのは、こうした状況に甘んじてサボっています。
これを防ぐには「サボっているのは意外とわかるんだよ」と示してあげることです。ただし怒る必要はありません。出来るかぎり避けるべきでしょう。
自発的に「サボっていちゃいけないな」と思わせることがもっとも大切なことです。
2.仕事の重要性を実感できない
誰でも重要でない仕事に全力で取り組もうとは思いません。
その仕事がいかに重要であるか気づいていない場合は、仕事を任せるときに「この仕事は……」とその重要性を示してあげるといいでしょう。
無言の期待というはクールかもしれませんが、理論的には好ましくありません。誰だって言葉で期待されても嬉しいものです。
重要でない仕事ばかりを任せている場合は、仕事の割り振りを見なおしてみるといいでしょう。
重要でない仕事をあたかも重要であるかのように見せかけることもできますが、いつかは限界がきます。能力に見合ったできるかぎり重要な仕事を任せるべきです。
いつも簡単な仕事ばかりを任せている部下に対して「あいつはいつもサボっているから重要な仕事は任せられない」と考えている場合、いつまでたっても状況はよくならないかもしれません。
3.個人の努力が評価されない
個人の努力が特定できる場合でも、それが評価されないのであれば頑張ろうという気も失せます。
部下がなんらかの結果を出したなら、上司は「それを認識していることを示し」、そのうえで「褒めたり、激励したり」するといいでしょう。
人は失敗しても特になにも言われないということが続くと、「別に失敗しても大して問題ないや」と思ってしまいます。そのため認識していることを示すのです。
ただし失敗したことに対して怒れと言っているわけではありません。あくまで認識していることを示すのです。「今回は残念だったな」「次は頑張れ」という言葉でも十分ですし、むしろ次に繋がる言葉になるのではないでしょうか。
4.チームの結束が弱い
これは多くの人が意識していることではありますが、もっとも解決が難しいことでもあります。
当然チームの結束が弱いとサボる人は多くなるでしょう。他人が苦労していてもなんとも思わないからです。
チームの結束が弱いときは、それぞれのメンバーが自分勝手に行動する傾向があります。これはメンバーがそれぞれのもとの性格がどうであろうと、自分勝手に行動するのです。
よく「うちのチームは自分勝手なやつばかりだ」という人がいますが、実は自分勝手な人を生み出しているのはチームそのものかもしれません。
メンバーに恵まれなかったと思わずに、チームの結束を改善するための行動をする価値は十分にあるでしょう。メンバーを信頼する姿勢を見せなければ、改善は望めません。
人間関係修復の手立ては、ほかでも多く紹介されているでしょうから、ここでは割愛します。
5.仕事の配分が明確でない
誰がなにをやるのかが明確でないとき、社会的手抜きが発生する場合があります。
例えば、「教室の掃除を4人でやっといて」といって放っておくよりも「教室の右側はAくん、窓は……」といったように、それぞれの仕事を分けたほうがサボりは減るでしょう。
その理由として、まず自分の成果が明らかになるということです。教室の右側がキレイなのに、左側が汚いということになれば、誰がサボっているかはすぐにわかります。
次に「誰かがやってくれるだろう」という心理にならないからです。みんなで全体を掃除する場合、「誰かが窓を拭いてくれるだろう。自分は背が低いからやらない」というように、誰かがやってくれることを期待してしまいます。
しかし、仕事の担当が明確であれば、「誰か」を当てにすることはできません。
6.甘えが許される親しい関係
サークルや「仲良し4人組」という集団のときに起こりがちな問題です。
仲良しというものの、お互いに叱ったり怒ったりできない場合、「どうせサボっても笑ってごまかせるだろう」と考え、手抜きをすることがあります。
平気で遅刻をしたり、なにか仕事を忘れていてもヘラヘラしているというのはまさにこの「甘えの関係」に該当しているといえるでしょう。
ですが、そんな関係が本当に「仲良し」だといえるでしょうか。必要なときには怒ったりすることもできるのが本物の信頼ではないでしょうか。
この「甘えの関係」を打破するには、誰かが勇気を出して声をあげなければいけません。
もしかしたら最初は「なんだこいつ、急に熱くなりやがって」といった扱いを受けるかもしません。しかし、それが必要なことであればやるべきでしょう。
いつまでもぬるま湯に使ってても、事態の改善は望めません。
7.優秀なメンバーがいる
意外に思われるかもしれませんが、優秀なメンバーの存在がサボりを誘発することがあります。
「どうせ俺がやらなくても、あいつがやってくれるんだろ」という具合です。
これは優秀な人がなんでも自分でやってしまうために起きてしまいます。でしゃばりなリーダーのもとでサボりが多いのはこれが理由です。
たまに、能力はある人が「周りは全然動いてくれない、役に立たない」と言っています。こうした人は、自分のやり方が悪いためにサボる人が出てきていることに気づかなくてはいけません。
こうならないためには、優秀な人やリーダーが周囲に適切な仕事を分けてあげることが必要でしょう。
リーダーばかりが仕事をして疲れていることもよくありますが、周りの人は仕事を任されないために仕事をしない、つまりサボっているということがあるのです。
任せるということは、自分で仕事をやる以上に難しいことでもありますが、適切な組織運営のためにも、相手を信頼し任せるということをするべきです。
*1:マイケル A ウェスト(2014)『チームワークの心理学』東京大学出版会 p.27