ポジティブ思考とネガティブ思考は物事を解釈するときの考え方、説明スタイルが異なります。
今回はそもそもポジティブ思考であることのメリット、デメリットについて説明しようかと。
ポジティブ思考は一般的に漠然と「良いこと」と思われていたり、その一般論に対する反動か「怪しい」「気持ち悪い」といった印象を持たれていたりします。
しかし、実はデメリットもあるんですね。
それから、一般に悪い印象を持たれているネガティブ思考にもメリットはあります。
ここでは双方の特徴的なメリットについて解説していきます。で、その裏返しのデメリットについても補足をするという形を取ります。
また、メリットとデメリットを踏まえたうえで、「じゃあどうすればいいのよ?」という点についても簡単に説明しようかと。
今回、引用するのは本書。著者はポジティブ心理学の権威で、ペンシルバニア大学のマーティン・セリグマン教授。
ポジティブ思考であることのメリットは「諦めないこと・続けられること」
メトロポリタン生命(書籍での表記のママ。メットライフ生命というほうが耳馴染みがある)で、保険外交員を対象にとある実験が行われました。
その結果、ポジティブな説明スタイルを持ち合わせている外交員のほうが、より多くの保険契約を成立させることがわかったとのこと。
これはポジティブな人のほうがトークがうまいということでなく、断られたときにそれをポジティブに解釈するということが起因すると考えられています。
※ここでは、ASQというのは、対象者の楽観度を図るテストであるという理解で十分でしょう。
ASQで上位半分の人たちは、下位半分の人たちよりも二〇パーセント多く保険契約を成立させた。上位四分の一は下位四分の一よりも五〇パーセント多く契約を取った。ここではキャリアプロフィールも同じような予測能力を示した。得点が上位半分の外交員は下位半分の外交員よりも三七パーセント多く契約を取った。二つのテストをあわせると(これらは別々の立場から受験者を見るので重複しない)、両方で上位半分に入っていた外交員は、両方で下位半分にいた外交員よりも五六パーセント多く契約を取った。
マーティン・セリグマン(1991)『オプティミストはなぜ成功するか』講談社(Kindleの位置No.1949-1954)
保険外交員は営業をかけても10回に9回は断られます。
断られるたびに「やり方が悪かった」「自分はダメだ」と考えてしまうと、すぐに会社を辞めてしまうでしょう(事実、本書によると保険外交員は一年で半分は辞めるそう)。
しかし、ポジティブ思考の人は、「忙しいときだったんだろう」「虫の居所が悪かったのだ」といった解釈を行うことで、長く仕事を続けることができると考えられます。
ここでいう「諦めない」とは、ネガティブ思考の人が精神的ダメージを負うような出来事を、ポジティブな解釈を行うことでそのダメージを低減できるから、物事を長く続けることができるという意です。
ネガティブ思考であることのメリットは「現実を直視できる」こと
ネガティブ思考を持っている人は現実を直視することができます。
詳しくは後述しますが、ポジティブ思考の人は自分に責任がある場合でも「他人だけが悪い」と考えたり、なにかを行うときに「どうにかなるだろう」と考える傾向があるんですね。そしてそれが実際と異なる場合もある。
これは説明スタイルについて知っていると、しっくりくる話だと思います。
これは実験によって簡単に試すことができる。口頭のテストを受けさせ、二〇回できて、二〇回間違えるように操作する。あとで結果はどうだったと思うかと尋ねる。すると、うつ状態の人は例えば二一回できて、一九回間違ったというふうにほぼ正確に答える。過去をゆがめて覚えているのはうつではない人々で、一二回間違えて二八回できたなどと答えるのである。
マーティン・セリグマン(1991)『オプティミストはなぜ成功するか』講談社(Kindleの位置No.2080-)
上記の実験では、どんな人でも10問正解、10問不正解になるテストを受けてもらい、それについて自己採点をしてもらいます。
すると、うつ状態の人はほぼ正確に自己採点できるのに対して、そうでない人は正解を多めに推測してしまうということです。
現実を直視できるとどんないいことがあるでしょうか?
例えば、経理だったり、プログラマーだったりという仕事は、失敗が許されない仕事です。「なんとかなるだろう」で進めていくと、大きな問題になることもあるでしょう。
投資の世界でも、損が出ているときに「いつかは利益が上がるだろう」という推測ではなく、現実の情報を見て投資先を変える必要があるでしょう。
企業の業績が傾いているのに、「景気が悪いだけ」というポジティブな説明をしていては、企業内部の問題を見落とすかもしれません。
悲観主義は、私たちがしばしば必要とする現実主義を支えているのではないだろうか? 人生には楽観主義では正しく対処できない場面がよくある。私たちは取りかえしのつかない失敗をすることがあるが、こういうときにバラ色のめがねで見るのはなぐさめにはなっても、現実を変える力はない。
マーティン・セリグマン(1991)『オプティミストはなぜ成功するか』講談社(Kindleの位置No.2040-2043)
ネガティブ思考は一般に「よくないよね」というイメージがあります。
しかし、一概にもそうとはいえず、ポジティブ思考よりも優れている部分もあるんですね。
ポジティブ思考とネガティブ思考のデメリット
ネガティブ思考の人は、物事をネガティブに解釈してしまうので、保険外交員のような仕事が長く続きません。
何度も勧誘を断られることでストレスを感じるのだとするなら、ネガティブ思考の人はポジティブ思考の人に比べてストレスを感じやすいということになります。
ポジティブ思考の人は、物事を事実とは異なる解釈をする傾向があります。
ポジティブ思考の人だろうと、ネガティブ思考の人だろうと、目の前で起こっている物事は同じです。
しかし、ポジティブ思考の人はその物事を楽観的に解釈します。それが現実とは異なった解釈になる危険性があるということですね。
なにか失敗をしたときに、自らの問題から目を背けて「漠然と次はうまくいだろう」「ぼくには才能がある」と考えても、問題が解決するとは思えません。
ぼくとしては、失敗の原因を分析するときは悲観的な目で冷静に原因を探り、次に挑戦するときは「この原因を解決すればうまくいく」「改善を続ければいつか成功できる」と楽観的な思考を用いるのがよいと考えています。
これは後述する「柔軟な楽観主義」であるとぼくは考えています。
結局、ポジティブとネガティブどっちがいいの?
じゃあポジティブ思考と、ネガティブ思考どっちがいいのよという話になります。
著者のマーティン・セリグマン教授は、『オプティミストはなぜ成功するか』のなかで、オプティミスト(楽観主義者)のほうが成功するということを語っています。
一方で、前述のようにネガティブ思考にもメリットがあると語っている。
そこで「柔軟な楽観主義」というものを提唱しています。
ポジティブ思考には大きな効用がある一方で、ネガティブ思考にも良い点はある。だから、状況に応じてポジティブ思考とネガティブ思考を使い分けていこうということです。
第 12 章以降の〝変身術〟の目標は、どんな状況にでもやみくもに楽観主義を適用しようというものではない。柔軟なオプティミストへの変身をはかろうというものだ。困ったことに出会ったとき、それをどう考えるか自分でコントロールする力をつけるのが目的なのだ。
マーティン・セリグマン(1991)『オプティミストはなぜ成功するか』講談社(Kindleの位置No.3527-)
自分の思考は無意識に選択されているものですが、意識すればコントロールすることが可能です。
本書ではポジティブ思考が遺伝ではなく、”教育”によってもたらされる可能性が高いことを示唆しています。
この記事や関わる記事を読んだ方たちも、ポジティブ思考とネガティブ思考が物事の解釈の違いによってもたらされること、双方にメリットとデメリットがあること、そして私たちの思考は自分の意志でコントロールできることがわかりました。
それだけで、柔軟な楽観主義の素質が芽生えるものと考えています。
では、ネガティブ思考の人は、どうやってポジティブ思考になるのか。それはまた別の機会に。